国が繰下げ受給を勧める理由

「年金」をテーマにしたご相談は、事業主様からもサラリーマンの方からも大変増えてきております。リタイアセミナーの講師依頼も多くいただいております。
2025年6月の年金制度改正もあり、アレコレ調べていたところ「国は年金の繰下げ受給を勧めたい」ことが分かる資料を発見しました。
今回は「国が繰下げ受給を勧める理由」について考えていきたいと思います。

目次

繰下げ受給を勧めたい根拠資料

2024年1月13日の社会保障審議会年金部会における資料の中に下記のような記載がありました。 

【繰下げ受給への影響】
加給年金は繰下げ受給の判断を鈍らせる。繰下げ受給や就労意欲に影響することがないように制度設計すべきであり、子や障害の場合に配慮しつつ、廃止の方向でよいのではないか。
繰下げ受給に悪影響を与えている加給年金は、女性の特老厚の年齢の引上げに伴い、制度の矛盾がこれから加速していく。加給年金の改革は時間との戦いであり、問題はどのように改革していくかに絞られている。

社会保障審議会年金部会 2024年1月13日
資料3これまでの年金部会における議論の振り返り(16ぺージ)

「加給年金」の在り方に関する意見の中に、「繰下げ受給の選択を妨げている」との記載がありました。
このことから、国は年金の繰下げ受給を勧めていることが分かります。

加給年金とは?

加給年金は、厚生年金に加入している方が65歳になったときに、その方が扶養する配偶者や子どもがいるときにもらえる加算額です。年金の「家族手当」とも呼ばれます。

加給年金が受け取れるの主な要件
  • 厚生年金に20年以上加入している
  • 配偶者は65歳未満、子どもは18歳到達年度の末日まで(1、2級の障害をもつ場合は20歳未満)
加給年金が受け取れない主な要件
  • 配偶者や子どもの年収が将来にわたって850万円以上あるような場合
  • 配偶者が原則20年以上の加入期間がある老齢厚生年金の受給権を有する場合
  • 在職老齢年金が全額支給停止の場合
  • 障害年金を受け取る間は、加給年金は受け取れない
  • 老齢厚生年金を繰り上げ受給する場合、加給年金がもらえるのは65歳から。


加給年金がもらえる/もらえないの要件をみますと、本人も配偶者も、年収が上がるような働き方をすると加給年金がもらえなくなることが分かります。
社会保障審議会年金部会の意見のとおり、「加給年金が繰下げ受給の選択を妨げている」というのも一理あることが分かります。

令和7年度の加給年金額は下記の通りです。

対象者金額
配偶者415,900円(239,300円+特別加算176,600円)
※特別加算は1943年4月2日以後生まれの場合の金額
こども 2人目まで各 239,300円
こども 3人目から各 79,800円

令和7年6月の年金制度改正により、加給年金額が変更になりました。(すべて令和6年度価格)

対象者金額
配偶者367,200円
こども 3人目以降も1人目・2人目と同額各281,700円

前述の社会保障審議会年金部会の意見にもあるとおり、配偶者の加給年金は縮小する方向に進んでいることが分かります。

繰下げ受給で得られる国のメリットとは?

では、国民が年金の繰下げ受給をすることによる国のメリットを考えてみます。

1. 財政面の理由

年金財政の安定化

繰下げを選ぶ人が増えると、年金の「支払い開始」が遅れるため、その分国の支出を先送りできます。

結果的に給付総額が抑えられる可能性

繰下げで増額された年金を受け取る人は、寿命が長ければ得ですが、平均寿命より前に亡くなった場合は「払い損」となり、国にとっては支払い総額が少なくて済みます。

2. 社会的背景

長寿化への対応

日本は世界トップクラスの長寿社会。65歳から受け取り始めると、20~30年以上も支給が続く人が多くなります。繰下げを利用すれば、受給開始年齢を実質的に後ろ倒しでき、長生きに備えるという名目になります。

高齢者の就労推進

定年延長や再雇用制度で「65歳以降も働く」人が増えています。働いている間は収入があるため、年金を繰下げることで老後後半の生活資金を手厚くする、という考え方を国は広めたいのです。

3. 政策上の狙い

「自助努力」を促す

公的年金だけでは生活を賄いにくい現実があるため、「働けるうちは働き、受給開始を遅らせることで老後資金を厚くする」というメッセージを国が発しているとも言えます。

制度の持続可能性確保

少子高齢化で年金財政は厳しいため、繰下げは「財源を守りつつ、本人の選択肢を広げる」という形で導入されています。

個人が考える繰下げ受給の視点

年金の繰下げ受給をすると、1カ月あたり0.7%年金が増額され、生涯増額された年金を受け取ることができます。
ノーリスクで、年利8.4%の利回りで年金を増やすことができますので、ぱっと見るとお得なように見えます。
(筆者は繰下げ受給をおすすめしておりませんが・・関連記事をご参考にして下さい)

繰下げ受給は、国にとって「支払いを遅らせ、総額を抑えられる」仕組みです。

個人が得をするのは、長生きした場合です。
つまり繰下げ受給は、「長寿リスクを国ではなく個人が引き受ける」制度設計になっているということです。

加給年金の話に戻りますが、配偶者の加算は、令和7年度は415,900円ですが、令和8年は367,200円です。
ざっくり40万円弱の加算額がもらえますが、縮小傾向にあることは間違いありません。
※1943年4月2日以後生まれの場合

加給年金をもらうために年収を少なくする働き方は本末転倒だと思うのですが、実際の相談会の現場では「加給年金をもらいたいので働き方を調整したい」とおっしゃる方は大変多いです。
そのような状況ですので、社会保障審議会年金部会で加給年金廃止の意見が出ることも納得です。

「年金繰下げ」や「加給年金」について、一面だけを見て損得を考えるのではなく、長期的なライフプランを立てたり、シミュレーションをして考えるべきだと思います。

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