ご相談の中でも「年金」をテーマにしたご相談は、事業主様からもサラリーマンの方からも大変増えてきております。リタイアセミナーの講師依頼も多くいただいております。
金融機関での相談会も担当させていただいておりますが、年金裁定請求直前での「繰下げ」のご相談も多く承っております。
今回は、年金繰下げ受給を検討している方に対して、実際の相談の中で私がお伝えするポイントをご紹介します。
公的年金繰下げの損益分岐点
基本的に年金は65歳からもらうことができますが、1カ月繰下げをすると0.7%増額されてもらうことができます。
70歳に繰下げすると約1.5倍、75歳に繰下げすると約2倍となります。
65歳にもらう年金額を82万円とした場合、70歳繰下げで116.4万円、75歳繰下げで150.9万円となって、増額された金額が死ぬまでもらえるようになります。
繰下げで増やすのはいいのですが、65歳からもらった人より受取総額が増える分岐点より長生きしないと、損してしまいます。
70歳繰下げするなら81歳まで生きないと「65歳でもらっておけばよかった」ということになってしまいます。
その分岐点が下記の表の通りになります。

年金手取り額シミュレーション
年金収入が増えると社会保険と税金も同様に増えます。
年金収入が増えると手取り額がどうなるかのシミュレーションをしてみました。
下記の表は、65歳独身、社会保険料は名古屋市のものを使用してシミュレーションしています(2025年9月時点)
年金収入は、老齢基礎年金、老齢厚生年金、iDeCoなどの公的年金の合算の年額とします。
年金収入が増えると、それに合わせて社保税も増えます。
手取率を見ますと、ある程度年金が増えると手取り率が減ってしまいます。
年金収入82万円の場合の手取り率93.5%
年金収入180万円の場合の手取り率90.8%
年金収入250万円の場合の手取り率85.5%
年金の繰下げをすると、もらえる年金額は増えますが、手取り額が同じように増えないことが分かります。

年金繰下げのデメリット
繰下げで所得が増えることにより、社会保険・税金の負担が増加します。
- 健康保険料・介護保険料が増える
- 所得税・住民税が増える
- 医療費窓口負担割合が上がる可能性。多くの方は1割負担ですが、2割負担、3割負担となってしまう可能性がある
- 高額療養費の上限額が上がる可能性
- 繰下げしても遺族年金は増えない
- さかのぼり受給をすると各年の修正申告が必要(さかのぼって税金・社会保険の追加負担)
- 損益分岐点の寿命まで生きられない可能性
特に昨今の法改正で社会保険の負担は増えていく一方ですので、前述の通り手取り率は低くなる可能性があります。
住民税非課税世帯
収入が年金収入のみの場合、基準額を下回ると「住民税非課税世帯」となり、給付金がもらえたり、税や社会保障の優遇が受けられたりします。
大都市の場合の基準額は、単身者は公的年金155万円、夫婦世帯は公的年金の合算で211万円です。
年金収入のみの場合、この金額に収まっていれば住民税非課税世帯となります。
年金を繰下げ受給すると、住民税非課税世帯の基準額を超えてしまう場合があります。
それも承知の上で年金を繰下げ受給するのであればいいのですが、あとで「しまった」ということにならないようにしたいものです。

その他の収入にも注意
年金収入のほかにも、個人年金保険や保険の満期金といった保険による収入や、不動産の譲渡などの収入がある場合も税・社会保険の負担が増えます。
最近は貯蓄性の外貨建て保険も増えており、その中でも毎月または数カ月に1回といった「定期金」が支払われる保険が人気です。
定期金は「雑所得」扱いとなり、受け取った定期金は年金などの収入と合算して総合課税で計算されます。
このような収入も考慮してシミュレーションする必要があります。
年金繰下げ受給の際に、「企業年金は一括または分割、どちらがお得?」といったご相談も大変多くいただきます。
企業年金の分割受取を選択すると、一括受取りよりも受取総額が増えます。
なのでみなさん分割受取を希望されますが、前述の年金の繰下げ受給の場合と同様に税・社会保険負担が増えますので、シミュレーションをしないとどちらがお得なのかは分かりません。
事業主様、法人役員様の「小規模企業共済」についても同様のご相談を大変多く承ります。
昨今では、税や社会保険制度の改正が度々行われて、負担は増していく方向です。
今シミュレーションしても、税・社会保険の負担が増える可能性もあり、長期になればなるほど予測が難しいのが現状です。
ただ、大枠の金額をつかむためにシミュレーションをすることは有効です。
「年金の繰下げ受給はノーリスクで年利8.4%」という一面だけで判断しないよう、多面的に検討されることをおすすめします。

